2016年8月31日

バッカスよ、どこまで行くの!

今年も一聴衆としてレヴューします。
結論から言うと去年以上にいいものを聞かせてもらいました。ただ今回ちょっとしたアクシデントで開演におくれてしまい、客席に入れたのは死の舞踏からでした・・・シンフォニア・桜色が聴けず残念。

途中入場で最後列から聞いたせいか、つばかぶりの迫力はありませんがバランスはとてもよく、最後まで聞こえにくい音域があるとかずれて聞こえるとかは一切なく、終始空間で良くミックスされた粒のそろった美音でした。

死の舞踏、市川さんの肩の力が抜けた正確な指揮、コントロールされたアンサンブル、吉田君の狂気の宿ったマンドリンの音(もう少し骸骨っぽい動きをするかと思ったが普通だった)。最後まで集中力途切れることなく聞けました。やるなあ。去年以上の安定ぶり。サン・サーンスらしいスマートで洒落た演奏です。管も打楽器も弦も心は一つといった感じで、全くよどみがありません。すごいじゃないか・・・と思っているうちに休憩。

ロビーには10数年ぶりの懐かしい仲間の顔も。今年は久しぶりの旧メンバーが多かった気がします。会社の人からハガキの御礼を言われたのでハガキ作戦効いているんでしょうね。

そして2部、小川君の登場です。事前にいろいろ聞いていた朝ドラメドレー。これは・・・いい!ここ数年で一番のヒットじゃないだろうか?
僕の周りでは一曲始まるごとにマドモアゼルたちがどよめいていました。朝ドラって主婦の楽しみなんですよね。うちの母なぞはこれだけが人生の楽しみと言っていました。

選曲や曲順もそうだけど、一曲の長さがちょうどいい。メロディにシンクロして当時の思い出に浸ったころに、次の曲が出てくる。アレンジはどれもメロディが引き立つシンプルで間や残響がうまくいかされている明朗なアレンジ。そして演奏もこれまた肩に力を入れず、ひたすら自然に歌っているんだな。おそらく会場の一人残らずが、心地よく温かい気分になったことでしょう。
さすがに声を出してうたう人はいませんが、お客さんの多くが心の中で歌っているのが分かります。これこそが僕らが目指していた「企画」でしょう!

小川君・大村君といった、経験豊富で達筆なアレンジャーがいるというのは、かなりのアドバンテージだと思います。傑出した団体というのは、だいたいそういう人達を擁しています。バッカスにはそういう宝物・優位性があるということでしょう。

もう一つの宝は管・打楽器隊。ボブさんが叩いているのを見るといろいろな楽しい思い出がよぎりいつも顔がほころんでしまいますが、ドラムセットが無いのにドラムセットの音が聞こえてしまうこのボブマジック。彼率いるリズム隊・そしてとにかく美音で歌いまくる管部隊はバッカスの得難い援軍です。

そして交響的前奏曲。この日一番衝撃的な演奏かも。交響的って実はすごく熱くて激しい曲ではと思っていたのですが、この演奏は想像以上の奇演でした。

冒頭で、もうこの高密度に圧縮された熱量に驚かされます。一転第二主題の震えるような氷点下のトレモロも鳥肌が立つよう。
大胆に思いのままにタクトをふるうファンタジスタ小川君に演奏者たちもくらいついていくこの駆け引き。この曲を知り尽くした人ほど、予想を次々と裏切られて呆然としてしまう、ここ数年最高クラスの名演じゃないでしょうか?

さて今年もいいテンポで橋渡しをしてくれるYASUKOさんがなぜか白い頭巾の様なものをかぶって出てきた。。。受けている。
こういう小ネタで客席の雰囲気を変えるのは変わらぬバッカス流。
クリミア戦争の簡単な解説もいい感じです。

そしてスラブですが。これがまたかっちりと締まってまとまっている。勇ましいメロディは豪快に、民謡のメロディは豊かに。フィナーレも十数年前は多少弾けなかろうがずれようがノリで押し通してたわけですが、おそろしいほどの集中力で、きっちり弾ききっている。最後は心が震えました。なんというか、一曲一曲誠意をもって大事に弾いているんだな。と。

ブラボーが3人くらい出ましたね。僕も両隣が知らないマドモアゼルで無ければ立ち上がっていたところです。この意気地なし!!

イキのいい若手の団員、中堅団員を古参がしっかりと締めて(古参トップが指揮者不在時曲をたたいているそうな)、ちょっとふわふわした指揮者たち(失礼!ガチガチじゃないって意味ね)を盛り上げる・・・という縮図が今はとても団としていいバランスに思えます。

アンコールの晴れルヤもさわやかな印象でした。

今のバッカスのとてもいいところ。肩に力を入れて無茶弾きしなくても、大きな美しい音は出るし、そのほうが自然に歌える。topたちが経験的に分かっていて、それを指揮者が理性的にコントロールして、とても好感のもてるクレバーでセンスのいい演奏になっているということ。

そしてそれが大人の柔らかいユーモアに包まれて聴衆と上質な時間を共有しているということ。

ん~。たしかにいい位置につけています。そして今年それが確固たるものになりました。

吉水先生とお話しもできてよかった。いろいろ珍しい人にもお会いできました。
ところで、挟まっている宣伝チラシに「交驚詩・はげ山はホラーパニック」が!割と大学や社会人団体で演奏していただいているんですが、実演を聞いたことはまだなし。関東は初めてじゃないかな?・・・あのボトルネック奏法やフルート頭部管ひっこぬきや「フォウ!」とかはどうやっているんでしょうか。

いや蛇足でした。
しかしつくづく勉強になりました。ちょっと発破かかりまして、今自分に出来ることを全うしようと思いました。


(こちらの記事は、今年も引き続き、育メン修行中の当楽団古参の指揮者、桝川大輔氏より寄稿頂きました。ありがとうございます!)