2011年9月1日

結成20年記念公演レヴュー!(本番編)

いよいよ20周年記念演奏会当日。 去年の「20」で「もうこれ以上のパフォーマンスはできない!」と引退をひそかに決意した僕ではあったが・・・さて今年は。

2.3日前に首を寝違えたり、仕事が片付かなかったりでブルーだが、行きの電車で須田・粕川君神大コンビに会って、馬鹿話をしてリラックスできてよかった。葛飾につくとすぐセッティング開始。今日もいろいろな人たちがお手伝いに来てくれている。ありがとう! セッティングは去年同様オケピをふさいで完了。
早速練習。あまりがんばりすぎず、出だしのチェック中心。ただしこれを結構しつこくやる。

想定内だが天井が高いので他パートの音が良く聞こえない。普段から指揮を見ることである・・それに尽きる。客席で聞いてみると、響きはとてもきれいだ。ただ速い曲の輪郭がぼやける。まったく去年と同じ事を言っている。つくづく懲りない・・・。

マリオネットのお二人が見えて、リハ開始。この日僕にとっての最大の心配は2部のトーク。湯浅さんのプロのしゃべりにほとんどお任せ状態である。 あとは本番までくつろぐ。2部の練習を省略してしまったせいか、余裕がある。マリオネットさんや賛助さん、団員たちと雑談しながら開演のその時を迎える。スペシャルゲストがいるので想像はしていたが・・・1階席2階席とも超満員!ありがとうみなさん!


さて、実演のときの印象はそのときの自分の位置や、感情に左右されるため、去年同様、録音を聞いて冷静にレヴューしてみよう。 何しろ録音ほど事実を伝えてくれるものは無い。うまくできたつもりがそうでなかったり、その逆ですごく良かったり。

特に深い意味は無いが今回はあえて今回限りの10点満点で点数をつけちゃおう。もちろん曲の価値と関係なく、奏者が心を合わせ、表現の輪郭がはっきりし、聴衆の印象に残る「よい演奏」かどうか。 早速上がってきた録音を聞く。。。

1部
プレリュード4
実演のときの印象はまだホールとなじめず、音とリズムがスカスカな感じがしたが、録音を聞いてみると、冒頭andanteはすばらしい響きではないか。ちょっと節回しが硬いが吉水節が美しい。
Allegroも、演奏中は周りの音がほとんど聞こえず指揮だけであわせているのはかなり不安であったが、録音では良くあっていてかなり細部まで音のディテールがきちんと聞こえている。

小川君の音楽はちょっと硬いが、その目的は細かいディテールをきれいに聞かせようとしているところにあると思う。つまり理数系なのだ。同じ曲を僕が振ると、主旋律重視の文系メロメロの音楽になる。 だからAllegroはかなり安心して聞ける。気合の入った轟音。いいです!
後半は吉水先生特有の豊穣な弦のうねりが、果てしない稲穂の波を見ているよう。 最初でちょっと硬いから8点


トッカータ・古代舞曲
この曲に恋して久しい。今回は速度を抑えて、やはりディテールを丹精に見せる作戦に出た。中間部の古代舞曲のマンドリンが呆然とするほどきれいである。雅楽のような管の和音がうなるほど美しい。今回パーカッション初演だが、僕にとってはまるでこれがデフォルトである。特に最後、パーカスの為の曲のよう。
もう少し決めの部分で息があってほしかったのと個人的にはもう少し速い方が好みだが重戦車のようなドライブ感もまた良し。 8点


幻想曲1番
小川君は一番振りやすい曲だったろう。師匠直伝だし。冒頭からして気合が違っている。縦の線もあってマンドリン・マンドラソロもすばらしい。3連もいい。軽さは無いが、適度な重みが慣性の法則そのままのドライブ感を出している。管楽器も良く歌っている。後半に行くにしたがって疲れるどころか集中力が増し、どこまで行っちゃうの?という感じだ。 マンドリンは雄弁である。ときどきバラバラッとなるが90人でこれだけそろえば奇跡である。豪速だが芯ははずさない。最後全パートの叫びが伝わってくる。快演! 9.5点


2部
リスボンの恋人たち
いきなり雰囲気はラテン。パーカスの活躍が目覚しい。よく聞いていると譜面にないことをいろいろやってくれていますね!面白い! 2NDのメロディ、歌いまくっている。素敵。ドラもよく歌っているがせっかくなのでもう少し聞こえたいか。1STもはねまくっている。リズム隊、全体に安定してそつが無い。メロディが取れたての魚のように新鮮。奏者が楽しんでいるのがよく判る。8点

花便り
これも、最初少し硬いのだが、後半ほど音色がまろやかになった。アレンジがすばらしいのだろうが、後ろに行くほど音楽の広がりがすごい。華やかな印象の演奏となった。先に行きたいという焦りと慣性の法則で後ろに残りたいという気持ちのちょっとした齟齬がある。けれど響きは極上。 7点

ここでマリオネットの紹介、YASUKOさんとからむが流れでギロッポンのねたがでない!結構あっさり紹介してしまった。ダメだ緊張している! ギロッポンのネタとは、六本木のライブの出演団員選出のとき身長体重ルックスのオーディションを行ったので自分は落ちてそれに出られなかった(無論冗談)というネタ。湯浅さんはつくづくしゃべりのプロである。何にも無いゼロから話を盛り上げてまだ固いお客さんを笑わせてしまう。この力は本当に何なのだろう・・・。

さて、航海王子
全体に呼吸が浅くちょっと前に転んでいるが、勢いは買いたい。サビは熱い!喜望峰の波濤が見える。 後半・・・湯浅さんの、弦楽器とは思えない嘆きの歌声のようなソロに聞きほれていて、僕は最後の最後でタクトミスを犯してしまう!ソロの終わりのリットとフェルマータを忘れたのだ!だが湯浅さんも団員も一瞬だけ戸惑いの表情を見せただけで、いつもどおり演奏してくれた・・・。録音で聞いているともちろんそれとはまったく判らない。湯浅さん、みんな、ありがとう・・・湯浅さんの演奏はもちろん最高だが、オケ全体にすこし転んでいるのと僕のミスのため6.5点


唐町雨情
やっときた。思い切り酔いしれ(られ)る曲。最初のお二人のデユオだけでもう鳥肌物。そして霧雨のようにふんわり入るオーケストラ・・・なんという甘美な響き。ひたすら幸せ。途中のオーケストラの聞かせどころ。みんなと目を合わせて、ここぞとばかり心の絶叫。ああ、なんていい曲なんだ。そしてこの一体感。音楽の女神様に抱きしめられているのがわかる。 9点


黒潮
すごい!最初からギターがいい音だし、吉田さんのアルペジオが美しい。湯浅さんのソロも人の歌声のよう。リズムがはいってからの全員一体のドライブ感の快感が尋常ではない。心は間違いなくひとつ!管楽器のロングトーンが永遠の水平線のよう。そしてこの盛り上がり・・・盛り上がりすぎだって。リミッター振り切っています。いやあ、すばらしいです。マリオネットさんも含め全員一体になれた。これはバッカス20年間の演奏の中で音楽的に1.2を争う演奏かもしれない・・・。実は合宿の帰り道でこの曲を想っては涙したのであるが、リハや本番では緊張して泣けなかった。しかし、今録音を聞きながら・・・。涙が滂沱としてとまらん! 10点!


あとは大サービス。おふたりのデユオ2曲。マンドリン酒場と花の葬列。帰りかけるお二人を「ちょっと待った・・」とわざとらしく呼び止めて小芝居。これはいまさら言うまでも無く、もはや舞台と会場が息を呑んでプロの演出と妙技に酔いしれるしかない。

もはや一体となった会場の拍手は鳴り止まず。なにかこう良すぎて呆然としてしまった2部。いやいや気を取り直して3部マリオネットさんの力を借りず、われわれだけで勝負だ! お客さんが半分くらいになっていたらどうしよう・・・という心配を裏切り、相変わらず満員の客席!!!心から感謝(20-30人くらいは帰ったと思います。時間遅いし)


3部
以下、ふたたび録音を聞きながら

プレリュード
冒頭のユニゾン、マンドリン3パート奇跡のようなそろい方。すごい。装飾音は小川君がマンドリンで引きやすく「タラ・タン」と編曲してくれたのだが、僕は原曲の「タ・ラタン」にこだわりたくて、そう変えてしまった。これは楽器の構造上難しく、どうしてもあせってしまうらしい。最初のが少し転んだがここ1箇所以外はOK。
後の変奏は、部分によってちょっところんでるなあ。その後のTUTTIは最高に良し。ドラの雄たけびすばらしい。中盤フレデリの弟のきれいな部分もクラリネットの音色がいい。
フレデリの悩み以降は管弦に迫る音色の美しさ。ここはじっくり指揮を見てあわせてくれていて、主旋律至上主義の僕のうねるテンポに奇跡的にオケがついてきてくれている。マンオケだからという甘えは一切感じられず、管弦の美しさと本質は変わらない。すごく良いが、ところどころにつめ切れなかったところがあるので7点


メヌエット
一番心配な曲だったのだが、実演でも録音でもかなり良い。最初の動機は、優雅さのかけらも無く、ざくざくなたで断ち割るような凄みのある音だが、こういうのも良し。中間部の素朴な歌、主旋律も思い切り歌い、オブリも一体感があってすごく良し。ギターのさくさくしたメロディーも小気味よい。 最後のポンポンも決まった。意外にこれは良い。8点


アダージェト
ファランドール同様、本番で神がかってしまった曲。この曲は音量記号を無視して、思い切り感情のままに歌い上げたのだが、この響きの深さと懐かしさ、テンポのうねり、熱い号泣のようなfffと前世の記憶のようなppp(そんな音量指示無いのにね)頻発するG.Pにもオケは奇跡のように一糸乱れずに燃えてくれた。しかし!!ここでもまた僕はタクトミスを犯してしまう。それも一番いいところで・・・。しかし録音を聞くかぎりそれは判らない。 これがなければ満点だった。9.5点


カリヨン
テンポ感は良く快速に飛ばしている。でもちょっと呼吸が浅くて、前に転んでいるか。中間部の8/6はもう少しやわらかく行きたかった。硬いなあ。どうしても4/3に戻る部分を自然にやりたくて、テンポもさっさと硬くキャラが替え切れていない。これを聞いていると、後のこと考えずに(多少不自然なつなぎになっても)8/6はもっとゆっくりメロメロにやわらかくしても良かったなと思う。 でも中間部やっぱり音はきれいです。特に管楽器がうなりたくなるほどきれい。7.5点


メヌエット
これは雅子さんのSoloに尽きる。むずかしいのにね。人と自然ともうひとつの別のものの存在のように歌い上げています。なにかこの世ならぬ妖精の声みたい。澄み切って自然なビブラートが心に自然に入ってきます。ギターもすごくきれい。TUTTIのFLUTEも良くそろっていていいです。Soloはもう満点であったが全体のアンサンブルがもう少し丁寧につめられたかな・・・8.5点


ファランドール
いわゆる神が降りてしまった演奏。冒頭からスイッチが入ってしまい三人の王も完全にオケがひとつになって咆哮している。高音と低音の追っかけなんて音のキャラがたちまくっている。
そしてAllegro。正木さんのタムが絶妙のテンポを打ち出してくれた。この瞬間から僕は最後の追い込みまで棒を一切振っていない。太鼓に合わせて体を動かしながら、奏者と目でずっと会話していた。「おい、いくぞいくぞ」とか「それ、くすぐれ!」とか「そろそろいけ!」とか。僕の音楽生活史上最高に楽しい数分間だった。

録音を聞いて、管パートの本当にうまいこと!最初から最後まで、キャラを出しまくって、リズムに乗り切っている。 もちろん全パートキャラ立ちまくりで、聞いていて爽快この上ない。 だんだん盛り上がって、例の部分、中低音の三人の王の咆哮と高音のファランドールの狂喜乱舞が完全に一体化している。ここはプロのオケでも結構ちぐはぐなCDがあるのに。

最後の駆け上がり、満を持して僕は全力でアッチェルした。その瞬間のベースの低音の駆け上がりのすさまじさ・・!惚れそうだ!豪速でたたみかけながらコード三発! 文句なしに10点!!

もう全員全てを出し切っていた。最後の最後でここまで狂えて、まったく悔い無し。いったん退場。 すぐ出てきてアンコール。 最後まで付き合ってくださった聴衆の皆様に心からのお礼と、結成の年である1991年のメドレーについて説明した後演奏へ。


WewerebornIn1991
さすがにチューニングが狂っていたか、最初のコードはカオス・・・。だが、すぐにSAYYESのメロディが耳を捉える・・・。リズムがはいってからの安定感が特にいい。個人的にはこのSAYYESのサビの前の盛り上がりとサビが好きである。全員で心を合わせてよく歌えている。転じてラブストーリーこれは少しアレンジがガチャガチャうるさすぎたかもしれない。もっとも気に入っているのは、少年時代のマンドリン合奏。その後のドラとチェロのまろやかなトレモロもいい。
そして愛は勝つ。実はここからお客さんに手拍子をお願いした。すごい勢いの手拍子。こういうコンサートって、隣に知らない人がいるから手拍子って結構恥ずかしくってできないのだが(少なくとも僕はあまりできない)今日のお客様は、ものすごい勢いで思いっきり打ってくれた。たぶんほぼ全員だったとおもう。本当にありがたいことである。

この客席との一体感が、たまらなく楽しくいとおしい。人間を信じたくなる。この客席との一体感こそが僕らの次へ年への原動力である。
オケはここからアホかというくらい体を動かしたのであるが、体を動かすと走る走る・・・!これはやばいかも。
普段から動かしてグルーブしながら練習をする必要があろう。最後は豪快にエンディング。最後の最後にバッカナールの特徴的なモチーフがちょっと顔を出したのはお気づきになったろうか?いくらなんでも最後は乗りすぎて崩れてしまったので(でも楽しいからいいんだが)7.5点?

でたりはいったりは1回で終わらせ、心から御礼をして全ての曲を終えた。 あのパフォーマンスから1年、これ以上はもう無いと思われたのであるが今年もできちゃった・・・みたい。

メンバー、マリオネットのお二人(と海井さん)お手伝いのスタッフ、そして誰よりもお客さまのおかげである・・!

ロビーで団友・友人・後輩・元教え子、いろいろな方に挨拶しつつ、打ち上げ会場へ繰り出したのであった。