2007年3月12日

響きを揺らす

演奏会でギターを弾いていると、よく「ノリノリですね」といわれてしまう。確かにノリノリなのであるが、それよりも音源を揺らすことによって響きにうねりと深みを与え、予測不可能な反響の偶然を期待するという深いたくらみの元に楽器を動かしているのである。

体を動かしている演奏は目をつぶっていても動いて聞こえる。どんなに巧みでも、一箇所にとどまっている音楽は面白くない。音響学など知らないから経験則で感じるしかないが、マンドリンやギターは、音の指向性の強い楽器で、仮にこれをまったく動かさずに弾くと表面版の向いている方向にしか音が飛ばず、そこから跳ね返っていく反響音も常に一定のコースを飛び続けることになる。

しかし、たとえば表面版をたった5度うごかすだけで、20メートル離れたホールの後ろの席では数メートルのうねりがあるはず。音の飛ぶ方向が不規則に変わり、反射するものの形や材質によって無限の変化と広がりが生まれる。

演奏中は体を動かして音楽に立体感を与え、なるべくホールのいろいろな方向に音を飛ばして響きを探ってみるべきなのだ。

かつてバッカスでは「スインギン・ザ・マンドリン」で表面版をスイングさせて音楽を躍らせるという試みをした。が、どちらかというとヴィジュアル面での効果ばかり強調されて、本来の意図が果たせなかった部分がある。

僕が合奏中「体を動かして!」と指示するときはヴィジュアル面ではなく、音量記号とか速度記号、表情記号と同等の必然性があると思っていただきたいのである。体を動かさずに演奏するのが普通の、逆に言うと演奏しながら体を動かしづらい楽器であるマンドリンの表現力をすこしでも高めるために・・・