2007年8月25日

バッカス17本番レヴュー(後編)

前編より続く・・・

小川君の第一曲目は「威風堂々第1番」。パーカッションも要所要所のつぼでしっかり決まり、頭から疾走感のある演奏となった。やはりMaestosoのメロディが何度演奏しても本当にすばらしい。pで始まりやがてffになっていく盛り上がりがぞくぞくするほど興奮する。自然に体が動いてしまう。この曲相当エグい動きをしている曲なのだが、マンドリンもよく弾いている。しかしまだ指が温まらない一曲目からこれなので、相当大変だったと思う。
ギターから聞くとマンドリンをはじめ他のパートの音はよく聞こえる。舞台上は問題ないのだが、心配なのはこの一体感が客席に届くかだ。

2曲目は「ヴァージナル」今回のために坂野先生が打楽器を加筆してくださった。今回はその初演である。
坂野先生の曲を演奏したことがある人ならわかると思うが、メカニックもテクニックもかなり高度なものを要求される。というか凝り過ぎ。坂野先生自身はクラリネット奏者で弦楽器は演奏されないのだが、弦楽器特有の奏法をこれでもかと使いまくるので、演奏しているほうも面白い。
1楽章は、一番それらしくてシリアスで好きである。古風なメヌエットをもっと起伏を激しくして複雑にした感じである。
2楽章は牧歌的で楽しい。少し滑稽でもある。僕はなんとなくサザエさんぽいと思っている。しかしこの曲も盛り上がりが激しい。
3楽章は一番好きかも知れない。冒頭のギターの不協和音がきれいだし、チェロうねり感がたまらない。フィナーレの全パートトレモロの部分が、さわやかなような、妖しいような、哀しいような、なんともいえない味がある。
4楽章は、未知との遭遇っぽい。。。前半の現代っぽい感じと、後半の古典的な感じのコントラストが面白いと思う。
小川君もこの曲の各楽章の魅力を十分に引き出してくれたと思う。
ちなみに客席で聞いてくださった坂野先生は、絶賛してくださった。ありがとうございました!!

1部最後はガラシャ。Yasukoさんのアナウンスで大いにボルテージを上げ、全員のめり込むように曲に入魂。やはりトリにかける小川君の気迫と鈴木静一の音楽のすごさだろう。既成のガラシャとは違う部分もあったろうが、これが「新」ガラシャである。やはりみんな同じ演奏ではつまらない。初めて聞くお客さんはのめりこんでいただけたと思うし、鈴木静一には一家言ある皆様には、いろいろ感性の違いを楽しんでいただけたと思う。フルート・オーボエ・クラの音色の美しさが際立った。それから何気にお手柄はピアノ。マンドオケの大編成にくわえられるピアノはどちらかというと聞こえなかったり、聞こえても遅れたりしていることが多いのだが、団員のmorissyが毎回練習に出てくれたおかげで、要所要所で存在感とキレのある音色を聞かせてくれた。精魂をこめたBmをかき鳴らし1部は幕を閉じた。

さて休憩時間。予想以上のお客さんの入りや、ヴァージナル・ガラシャが本番で一番うまくいったことなどで楽屋はざわめいた。

さて第2部、僕の指揮である。みなと一緒にあらかじめ舞台に入り、ピアノの陰に隠れる。真っ暗になると、Yasukoさんが前説をはじめるので、その間に指揮台にスタンバイする。
この前説が・・・真っ暗闇の中からいきなり「心臓の弱い方はいらっしゃいませんか?」である。こういう機会もないのでYasukoさんの前説を思い出す限りかいてみよう。「聖ヨハネ祭の前夜・・・今夜のように生暖かい夜、はげ山に妖怪たちが集まり、朝まで飛び回るというヨーロッパの古い伝説があります・・・」という感じで始まり、あおり方もプロである。開場には子供もいたので、期待のどよめきがおきていた。
さて、まったくの真っ暗闇からスタート。ほとんど気配だけで予備拍を出す。すぐ明るくなるはずが遅れたりしてちょっとヒヤッとした。

はげ山・ジョーズと無事に来てス○ラーはリハでは出なかった「アオ!」がよく出た。山の魔王でのマンドリンのボトルネック奏法は思いのほかよく聞こえ面白い響きであった。
Xフ○イルも集団ハーモニクスがよく聞こえた。エクソ○ストは携帯電話を使って、トリックをやるつもりだったが、直前で中止。全17-18曲が10分の中に次々と現れる早替りメドレーであったが、最後はモンスターで締める。偶然、阿久悠氏の代表作である。企画でいつもポピュラーをやるとき欠かせないのがシンバルとスネアの8ビート。パーカスの広井さんがたたき出すこの昭和のリズムがたまらない。時代は16ビート・32ビートと進化しても、昭和はやっぱり8ビートだ。

本当に楽しかった。この楽しさが舞台上だけではなくお客さん全員に分かち合えているといいのだが・・・そう信じよう。
さて、次は展覧会。編曲のよさについてはもう多くは言わないが、一応それぞれの組曲について。

プロムナード~グノーム
出だしの音についてよくドラ奏者と話し合った。どういう音を出したいのか?・・・TOP曰くまばゆい光のような音?・・・どうだったろう。僕にはわりと寒色系のさわやかな澄んだ響きに聞こえた。あえてピッキングとトレモロを交互に交えて、トレモロの豊穣さを出したつもり。グノームは緊張感があった。空中に小さな爆弾が浮いていて、それを全員が的をはずさずに同時に粉砕する感じ。練習を始めたころは一番憂鬱だった曲だが、今は一番自信のある曲である。

プロムナード~古城
実はこの曲が本当に仕上がったのはギリギリ。8/6のリズムが円を描いていく感じ。これが全員が出来るようになったのが合宿の終わりのほうであった。一見シンプルな曲ほど難しいという典型の曲。細野君枯れたソロ乙。

プロムナード~チュルリー
これはテンポも感情も自由自在に出来た。ソリの連中としっかり目で会話しながら。

ヴィドロ
これこそ一音入魂。低音絃のうねりが素晴らしい。リズムも落ち着いていた。Pesanteの部分、人生の重荷の感じが良く出ていたと思う。

プロムナード~卵の殻をつけた雛の踊り
プロムナードが難しい。搾り出すような微妙なトーンに聞こえたろうか?ひよこは、小動物が踊りまわるようにめんこく出来た。

サミュエル
これはバッカスが得意とするタイプの曲だと思う。とにかく呼吸のある演奏を心掛けているので、いっせいに弱起ではいったり、いっせいに消音するのはバッカスの得意技の一つ。後はもっと動きのある演奏が出来れば・・・

リモージュ
最初に苦しんだ曲ほど後から伸びてくる。最初に通した時は、どんどん音がなくなり、そして誰もいなくなって、沈黙の後思わずみんなで大笑いしながら「これは大変だぞ・・・」と思ったのだが、今日は嘘のような快速でとても楽しくできた。みんな力まずに軽く弾いたのでそれがいいほうに作用したようだ。

カタコンベ
この曲ほど自分の予備動作のあいまいさ、技術の足りなさを実感させられた曲は無い。最初の頃、ffが出てくれない。ppに下がらない。そもそも頭が合わない。だからこの曲を完成させていくということは自分の指揮法の弱点を直していく作業そのものだった。流れの中で棒をとめずに、予備の軌道を大きくゆっくり取りながら、トレモロを使わずにあえてピッキングのみで練習した辺りからとてもよくなったようだ。指揮者は奏者から棒の振り方を学ぶという、ある音楽家の言葉を実感。

死者の言葉
これも搾り出す感じでトレモロの粗密を上手く使いたい曲。和音が天国的に美しい。管楽器のコントロールが上手くいった。

バーバ・ヤーガ
正直もう体力の限界であった。が,もう止まれない。もう皆さんのビート感を信じて次の拍を打ち出すしかない。快速ではあったが意外と冷静に淡々と行った。中間部分はベースとチェロのドスがなかなか利いていたと思うのだがどうだろう。そして真っ黒な上昇音の向こうに光が見えてきた。

キエフ
そして一面の光の世界・・・。とてつもなく高いところから見渡しているような。みんな良く力が抜けていた。精神的にはもう感極まっているのに身体はすごく力が抜けていた。でもこれでいい・・・舞台に光が満ちてくる。
最後の「ヤン・パーン」は80人全員とうなずき交わしてからおもむろに。カンパネラの乱打の中最後のアコードを打ち出す。指揮者冥利の瞬間であった。

非常に満足してタクトを置いて、団員を立たせて御礼する。
アンコールは威風堂々を途中から。アンコールの曲紹介時、聴衆の皆さんに盛り上がってきたら出来ればとお願いしたら冒頭から手拍子が。「普通maestosoからだって!」と一瞬思ったが、もちろんありがたいことだ。このとき実はマンドリン界初「隣と腕組み弾き」をもくろんでいたのだが奏者の方で出来ないと断られた・・・。胃もたれがしそうなAllagの威風の後、定石どおり最後のDの伸ばしで拍手が!ディナーショーみたいになってきた。そのままバッカナールへ。コンミスみっちゃんの伝説的なソロの後、いつもより飛ばしたバッカナール。速い!でも楽しい。

さて、三たび舞台に引っ込んでもお客様は拍手を下さるので、ここはあつかましいが想定外のアンコール第2弾。本当に想定外だったので、舞台上で団員に「じゃ、はげ山のモンスターから!」と指示をだす始末。団員もお客さんも失笑である。モンスターから最後までを演奏。阿久悠氏のご冥福を祈ります・・・

ちょっと長いアンコールとなってしまったが、団員もお客さんも楽しんでいただけたようだ・・・

というわけでいつもながら思い入れたっぷりのポジティブ一辺倒なレヴューとなってしまったが、勿論演奏は完璧にいったわけではない。ところどころ音程もリズムもハズシたし、僕は曲中指揮棒を2回落とすというありえないミスをした。
しかし、この日の舞台にたった者は一人残らず心をこめて演奏したし、お客さんと共有できた時間の楽しさ、喜びを考えた時、どう考えても差し引いてお釣りが出るのである。
終演後はロビーでご来場のお礼を言うのだが、懐かしい団友、他団の友人、家族、会社の人、船堀からついてきてくださったお客さんなど、本当にありがたかった。この場を借りて、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!

さて、打ち上げはいつものふたき。団員のほとんどが執行部に属しているバッカスでは各係とパートTOPの乾杯がいつ果てるともなく続いた。ふと気が付くと、十分予想していたことだが、会場には魔女、鬼太郎、ジョーズ、殻をつけたひよこ、バカボン、孫悟空(なぜ?)といった連中が走り回っていた。
こうして、今年もバッカスの一番熱い日は終わったのであった。