豪雨の中、バッカス18にご来場くださり、本当にありがとうございました!
団員一同、深く感謝いたします。
では、今年も例によりセルフレビューを。
8/30朝、ここ数日続いている異常気象・ゲリラ雷雨の不吉な予兆を感じつつ、青 砥に到着。団員達と挨拶を交わしつつ、舞台設営に入る。かつしかは14年前使わせ ていただいたのだが、音が散って合わせにくく苦戦した思い出がある。それを思い出 し、8月からはなるべく耳に頼らないで指揮にあわせる練習をしてきた。
久々に見る舞台はかなり奥行きがあるように思えたが、ひな壇2段とドラが5プルあ るのであっという間に指揮台がステージのきわに。早速1部の練習が始まった。客席 で聞いてみると、残響がとても豊かで驚いた。とくにマンドリンのトレモロの長く持 続するような音は、倍音が客席全体に広がるようなイメージでとても良い。その一方 で速いテンポのピッキングの音は、輪郭がぼやけ、スカスカな感じもしたが。
午前 中、1部練習終了。 昼食時、ちょっとしたアクシデント。僕自身が自分のお弁当をフ タを取った状態でさかさまに床に落としてしまったのである。しかし世界共通3秒 ルールをクリアしていたので、問題なくいただいた。 ギター部屋ではワンセグ携帯を持ち込み、YOUTUBEで80'SのPVを鑑賞してモチベー ションをあげる。僕が10代の頃大好きだった曲を、いま、やはり大好きなマンドリ ンオケでトリビュートする。団員の半分以上を占めるようになった若手にはつき合わ せてしまった感があるが、今ではみんなこの曲を愛してくれている。
午後は2部の練習・全曲通しへ。本番に最高のコンディション・テンションを持って くるため、全体にセーブ気味にして、あえてテンポの変わり目の確認程度で淡淡とリ ハをこなす。本番で必ず大爆発してくれることを信じて。 2部はテンポの速いピッキングの曲が多いので、合わせにくいのではと思ったが、そ んなことも無く、天井が高いホールにありがちな音が散るような違和感は無い。とす るとあの14年前の状況はどうだったのだろう。たぶん指揮・アンサンブルの技術が未 熟だったのであろう。あれから少しは成長したということか。
こうして、あっという間に開演時間が近づいてきたが、団員一同の胸に去来していた 懸念はやはりこの日の天候である。午後から、関東圏は傘を差しても下着までぬれる ほどの記録的豪雨になっていた。 自然の猛威には勝てない・・・今日は客席の半分も埋まればよい。こんな年もあるさ ・・・。と半ばあきらめていたのである。
そして開演。舞台にたつと、開演の段階で客席(1階のみ)が7.8割がたお客さまで 埋まっていた!思わず胸が熱くなる。司会のYASUKOさんも同感だったのであろう、ま ず冒頭に雨の中来場いただいたお客さまに感謝の言葉を伝えたが、それはありがちな 事務的な挨拶ではなく、本当に気持ちがこもっていた。同時にそれは我々一人残らず の感謝の気持ちを代弁したものでもあった。 8/30の豪雨の中、かつしかシンフォニーヒルズの幸せなる2時間は、まさ にこの感謝の言葉から始まったのである!
小川君指揮、1部1曲目のシリウス。1楽章はピッキング中心のせいかマンドリンが 聞こえず、まごついたが、指揮をなるべく見るように心がけた。本当は暗譜がかっこ いいのだがそこまでいけないのがくやしい。 2楽章はトレモロ中心で、よく聞こえ、やっと落ち着いた。3楽章はやや速かった が、みんな良く一体になっていた。 終わってみれば、このホールのもつ残響の美しさが、曲の神秘性とよくマッチしてい た。
2曲目は交響的前奏曲。吉水先生の最新作にして最深作。おそらくこの日一番美しく 響いた曲だろう。 各パートの魅力が存分に出せた。ギターソロもやや力んだが会心のでき。 この曲は「1961」コンサートで初演された曲であるが、僕には、小林先生、加賀城先 生、吉水先生が同じく生誕された1961という神秘な年へのオマージュというか、また は吉水先生の半生のようなものがそこに描かれているような気がした。
3曲目は華燭の祭典。マネンテは大好きである。これはほとんど暗譜。やはり2楽章 がとても美しく鳴っていた。打楽器もフルで入る。パーカッションの賛助さんがタイ ミング・音量ともぴたりと調整してくれているので合奏が締まる。 1部は非常に上手くいった。お客さんの拍手も激しい。 曲が終わるたびにお客さんは増え、ほぼ満員(しつこいが1階席のみ)に、次は2部 である。
さて、2部冒頭はYASUKOさんの力を借りて、僕がMJのようにムーンウオークで入っ てくるという、お約束の演出。僕の年代なら誰もが一度はやったであろうムーンウ オーク(の真似)。自信はなかったが、お客さんにリラックスしてもらいたい、笑って もらいたい一心である。笑いのセンスが無い僕は結局中途半端なムーンウオークをし てしまったが、なんとかYASUKOさんにオチをつけてもらい、場だけは和んで指揮台 へ。
さてここからは夢のような10分間であった。MJはもう少し乗りたかったが平板 だったか。ライクアバージンはもっと色っぽくしたかったが、そこは日本人、淡白で シャイなのである。ちょっと物足りない。ビーナスはパーカッション隊の活躍もあり 狂おしいほどノリノリである、ビリージョエルはよく歌えていた。全てをあなたに・ ・・酔いしれそうである。ボーントウラブユー、まさに大爆発で爽快この上なかっ た。ウイーアーザワールドも、しみじみと心の中で大合唱である。この10分間は僕の 一生の宝であった。 お客さんも楽しげに聞いてくださるのが背中でわかった。
そして胡桃割り。小序曲のテンポは冷静にスタート。マンドリンはハイポジで細かい 動きが多いのでどうしても指板を見てしまい、そういう部分が走るのだが、4小節単 位のメロディの始点・力点・終末点があっていれば、そんなに気にする必要はないと 達観。 マーチもそうで、これは歩調をとにかく合わせることを考える。一曲終わるごとに、 お客さんが期待をこめて耳をそばだてているのを背中で感じる。
金平糖、全体にちょっと急いでいるのだがまずまず。トレパーク、いかにもバッカス らしい元気で豪壮な演奏。ストリンジェンドも見事に決まった。アラビア、ゆったり したトレモロはこのホールに一番響く。安心して聞けた。 ここから先は、フルート主役の2曲。バッカスが誇るフルート隊は完璧なアンサンブ ルを聞かせてくれた。
そして終曲の花のワルツ。 冒頭のテーマはもっと自由自在にやりたかったのだが時間切れ。でもこれでよい。少 し崩れてしまったかもしれないが。 マンドリンのカデンツァは相当難しいのだが良くここまで出来たと思う。コンミスの 開き直ったかのような大胆なアルペジオが会場に響き渡った。 第1主題の対のテーマ、クラリネットのゆれ具合が絶品!そして有名なさびだが・・ ・。欲をかけばきりがないが、もっと高く遠く舞い上がりたかった。もっと空気を巻 き込みたかった。これは3セット+発展系があるのだが、一つ一つ違う高度で違う表 情で高ぶっていきたかったのだが、少しスタミナ切れしたか。
フルートの第3のワルツでドーパミンの放出は最高潮に。その後のドラチェロのエス プレーシヴォは、あまりに壮絶な音を搾り出すので感情がほとばしり自分も訳がわか らなくなってしまった。冷静さを欠き裏拍の伴奏とあわなかった気もするが、これは これですごく良かったのではないか。 中盤で力を出し尽くしてしまい、圧倒的なフィナーレ感にやや欠けたが、そこはパー カッションが盛り上げてくれた。心配していた最後のテンポ急変は心をひとつに大団 円で最後のアコードを燃焼させることが出来、これは満足。 指揮台を降りる前から激しいフライング拍手を頂き、うれしさで倒れそうである。
ソリストをたたえ、全員を立たせた後、とまらない拍手の中、1度出入りして、アン コール。トレパークのつもりでいたのだが、その場の気分でウイーアーザワールド に。メドレーの途中から無理やりやるので、絃も大変だったと思うが、管楽器や打楽 器さんは持ち替えやチューニングでパニックだったらしい。軽率であった・・・ごめ んなさい。
さて、このアンコールはお客さんから手拍子をいただいた。ものすごく力強い大きな 手拍子で、これまでに無いほど舞台と客席の一体感を感じた。いつになく快速のバッ カナールを演奏後、また全員を立たせ退場したが、拍手はやまず、珍しいことに奏者 が退場する間も続いた。(会場が暗転しなかったからかもしれないが) ふれあいタイムでロビーに行き、お客様一人ひとりに心からご来場のお礼を言う。懐 かしい顔も。本当にありがとう。
今年は非常に珍しいことだが、何人もの見知らぬ女性が僕に握手を求めてきた。なぜ だかみな一様にオーバー60の淑女たちであった。中には、なにか健康にいいと思わ れたらしく「元気を分けて」といって殺到する淑女たちもおり、僕もけして若く は無いのに残り少ないヘロモンをかなり吸い取られた気がした。 お客様が帰る時間も雨が降り始め、本当に申し訳なく、無事にお帰りいただけるよう 祈った。
我々はタクシーに分乗し、ふたき旅館へ。 豪雨という最悪の条件にもかかわらず例年並みの入場者、上手くいったコンサート・ ・・打ち上げを待たずしてもう僕らは最上の美酒に酔っていたのであった。放歌高吟 の打ち上げの夜はふけ、ふと気付けば、会場は例年通り、ルパン3世、花嫁、ピンク のウサギ、蛇使い、スケスケのベリーダンサー、黒人、ガチャピン、などが走り回る 異様な世界と化していた。
指揮者へのプレゼントとして僕はとても立派な(ドイツ製の!)胡桃割り人形を戴い てしまった。が、その夜の夢にはバレエのようにねずみの王様は出てこず、スケスケ のベリーダンサーや、むらがる淑女たちの幻影に悩まされたのだった・・・。